脳の器質的損傷を伴わない精神障害(以下「非器質性精神障害」といいます。)については、以下の基準によることとされています。
1、非器質性精神障害の後遺障害とは
非器質性精神障害の後遺障害が存在しているというためには、以下の精神症状のうち1つ以上の精神症状を残し、かつ、能力に関する判断項目のうち1つ以上の能力について障害が認められることが必要です。
つまり、精神症状があり、それゆえの能力の欠落が認められる場合に認定される可能性がでてくるということです。
精神症状
① 抑うつ状態
② 不安の状態
③ 意欲低下の状態
④ 慢性化した幻覚・妄想性の状態
⑤ 記憶又は知的能力の障害
⑥ その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
能力に関する判断項目
① 身辺日常生活
② 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
③ 通勤・勤務時間の遵守
④ 普通に作業を持続すること
⑤ 他人との意思伝達
⑥ 対人関係・協調性
⑦ 身辺の安全保持、危機の回避
⑧ 困難・失敗への対応
2、就労意欲の低下等による区分
就労意欲の有無で、後遺障害の判断基準が異なります。
1) 就労している者又は就労の意欲のある者、現に就労している者又は就労の意欲はあるものの就労はしていない者
精神症状①~⑧のいずれか1つ以上が認められる場合に、能力に関する判断項目①~⑧(以下「判断項目」といいます。)の各々について、その有無及び助言・援助の程度(「時に」又は「しばしば」必要)によって障害等級が認定されることになっています。
2) 就労意欲の低下又は欠落により就労していない者、就労意欲の低下又は欠落により就労していない者
身辺日常生活が可能である場合に、判断項目①の身辺日常生活の支障の程度により認定されることになっています。
就労意欲の低下又は欠落により就労していない者とは、職種に関係なく就労意欲の低下又は欠落が認められる者をいいます。
特定の職種について就労の意欲のある者については判断項目①~⑧のそれぞれを見て、総合的に判断されることになります。
3、後遺障害の程度に応じた認定
非器質性精神障害は、次の3段階に区分して認定されることになっています。
1) 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、 就労可能な職種が相当な程度に制限されるものは、第9級とされます。
例えば
就労意欲があり、精神症状①~⑥に該当する場合には、判断項目のうち②~③のいずれか1つの能力が失われているもの又は判断項目の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
非器質性精神障害のため、「対人業務につけない」ことによる職種制限が認められる場合
就労意欲の低下を発症している場合には、身辺日常生活について時に助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの
などです。
2) 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、多少の障害を残すものは、第12級とされます。
例えば
・就労意欲がある場合には、判断項目の4つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
例 非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、 就労に当たりかなりの配慮が必要である」場合
・就労意欲が低下している場合には、身辺日常生活を適切又は概ねできるもの
などです。
3) 通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため、 軽微な障害を残すものは、第14級とされます。
例えば、判断項目の1つ以上について時に助言・援助が必要と判断される障害を残しているものが該当するとされています。
非器質性精神障害のため、「職種制限は認められないが、就労に当たり多少の配慮が必要である」場合などです。
4、重い症状を残している者の症状固定の判断上の注意
重い症状を有している者(判断項目のうち①の能力が失われている者又は判断項目のうち②~③のいずれか2つ以上の能力が失われている者)については、非器質性精神障害の特質上症状の改善が見込まれることから、症状に大きな改善が認められない状態に一時的に達した場合であっても、原則として療養を継続することとされています。
ただし、療養を継続して十分な治療を行ってもなお症状に改善の見込みがないと判断され、症状が固定しているときには、症状固定の状態にあるものとし、障害等級を認定することとされています。
その場合の認定は判断が難しく、結果がでるまで時間がかかることが予想されます。
注1:非器質性精神障害については、症状が重篤であっても将来において大幅に症状の改善する可能性が十分にあるという特質があることに注意が必要です。
注2:事故やそれに起因する周辺環境の変化による心理的負荷を原因とする非器質性精神障害は、それらによる心理的負荷を取り除き、適切な治療を行えば、多くの場合、概ね半年~1年、長くても2~3年の治療により完治するのが一般的であって、業務に支障の出るような後遺症状を残すケースは少なく、障害を残した場合においても各種の日常生活動作がかなりの程度でき、一定の就労も可能となる程度以上に症状がよくなるのが通常と言われています。
注3:保険屋さんの圧力に負けない、医師のプロとしての判断が問われます。