むちうち症の被害者の損害賠償問題は、交通事故の当事者はもちろんのこと、裁判官、弁護士のみならず、医師までをも悩ませています。
それは、むちうち症のケースには持病や体質的素因、心因的要素等の影響などにより、自覚症状の程度が人によってさまざまで、予想外に治療が長期化したり、そのための治療費が高額化したり、事故の程度に比べ意外に重い後遺障害が残ったりする場合があるからです。
その上、被害者の訴えに比べ他覚的所見に乏しかったり、被害者が転医を繰り返したり、時には、詐病を疑いたくなるような事情が見られたりすることも、むちうち障害立証を困難なものにしています。
加えて、問題を困難にするのは、事故と症状との因果関係や、後遺障害の程度の評価につき医学的な対立が見られることがあります。
この程度の事故で、むちうち症になるはずがないであるとか、数か月で治るはずだとか、そういう考え方です。
そして、基本的には、重い障害と見られることがないことから、重篤ながん治療等と比べ、医学的研究が進まないこと、苦労して、むちうちによる後遺障害が認められても、賠償金が低額になることから、賠償の専門家も、敬遠しがちな現実があります。
よって、むちうち症の賠償では、医学鑑定や、弁護士費用といった、経済的リスクの大きな訴訟を行う前に、自賠責保険への手続きによって、後遺障害の認定を受けておいた方が得策と言えます。
なぜなら、任意保険会社は、自賠責保険の判断を尊重しますし、訴訟においても、自賠責保険と同等の後遺障害、または、より重い後遺障害を認定することはあっても、自賠責保険の認定した後遺障害を否定することは、基本的には無いからです。(ごく稀に、自賠責保険の判断を下回ることはあるようです。)